情報科学科

高須 夫悟

たかす ふうご


研究分野

数理生物学、進化生態学

高須夫悟

研究内容

生物集団の構造及び進化に関する数理的研究を行っています。数理的研究とは、対象となる系を抽象化して数式モデルで記述し、 これを解析的にあるいは計算機シミュレーションを駆使することによってモデルの振る舞いを調べ、 モデルと現実の系を比較検討することで新しい知見を見出そうとする研究です。これまでに、野外研究・実験を行う研究者と 共同して、多くの研究成果を上げてきました。現在取り組んでいる主な研究内容は、1)托卵鳥系の共進化、 2)生物の分布域拡大の機構、3)Individual Based Modelを用いた動物行動の進化、の3つです。

クロジの巣に産み込まれたカッコウ卵

クロジの巣に産み込まれたカッコウ卵。
模様の違いで見分けがつくのがわかります。
1993年6月長野県カヤノ平にて撮影。

1)の托卵鳥系の共進化に関しては、カッコウのように他の鳥の巣に卵を産んで自分で子育てをしない「托卵」を行うパラサイトと、 托卵されるホストとの間の軍拡競争型の共進化の機構を数理モデルを用いて解析しています。 パラサイトの卵を認識して排除するホストの行動の進化、及び、卵の模様といった量的な形質に関する共進化の メカニズムの解明に取り組んでいます。鳥類の托卵を主眼に置いていますが、寄生(搾取)する側とされる側の共進化は、 托卵以外にも幅広く自然界に見られ、托卵以外にも同じ論点が当てはまるのではないかと思われます。托卵に関しては、 日本・ハンガリー・ノルウェー・スペイン・チェコ等のフィールド研究者と国際共同研究をすすめるなど、 野外調査実験に立脚した数理的研究を進めています。

卵模様の変化のダイナミクスモデル

卵模様の変化のダイナミクスモデル

個体標識のタグをつけたカッコウ

個体標識のタグをつけたカッコウ。1994年千曲川河川敷にて撮影

センチュウを媒介するカミキリの空間的伝播モデル

センチュウを媒介するカミキリの空間的伝播(モデル)

2)の生物分布域拡大の機構に関しては、マツ枯れを引き起こすカミキリとマツノザイセンチュウの分布域の拡大に関する研究を 進めています。マツノザイセンチュウが原因となるいわゆるマツ枯れ病は社会的な問題となって久しいのですが、 被害拡大をくい止めるための多大な努力にも関わらず、マツ枯れ被害は拡大し続けています。ザイセンチュウを媒介する カミキリの空間移動を数理モデル化することにより、マツ枯れ被害の拡大の速度の推定などの研究を進めています。 現在は国内の林学者と共同して実際の観測データを用いた詳細なモデルの解析を進めています。

ホストとパラサイトの共進化モデル

IBMによるホスト(青)とパラサイト(赤)の共進化モデル。
横軸は卵模様形質、縦軸は時間。

3)のIndividual Based Modelとは、生物固体同士の間の関係(個体の移動や個体間の相互作用など)に一定の規則を設けて、 計算機の中に仮想的な生物集団を構築してその振る舞いをシミュレーションで調べる研究です。 従来の数理モデルでは数式化しづらいより現実的な仮定の設定が可能で、計算機の能力が飛躍的に進歩したおかげで今後、 さらに発展が見込まれる研究分野です。 現在はこの枠組みを用いて、確率的変動を含むIBMと解析モデルとの関連等について研究を進めています。

数理的手法を用いた研究は、計算機の発展に伴う情報化社会の中でますます重要視され、生態学・進化生態学以外の研究分野でも、 今後多大な研究成果が期待されるものと思われます。私はこれからも生物一般に関した幅広いテーマを対象とした研究を 進めると同時に、最先端の研究を学生に紹介することで学生の学習意欲や新しくものを考える力を向上させ、 学生の教育にも力を入れるつもりです。学習・研究意欲のある学生を期待します。



主な論文と著書

  1. Takasu F., C. Moskat (2010) Modeling the consequence of increased host tolerance toward avian brood parasitism. Populagion Ecology in press. DOI 10.1007/s10144-010-0221-x.
  2. Yang C., W. Liang, Y. Cai, S. Shi, F. Takasu, A.P. Møller, A. Antonov, F. Fossøy, A. Moksnes, E. Røskaft, B.G. Stokke (2010) Coevolution in Action: Disruptive Selection on Egg Colour in an Avian Brood Parasite and Its Host. PLoS ONE 5(5): e10816. doi:10.1371/journal.pone.0010816.
  3. Takasu F., C. Moskat, A. R. Munoz, S. Imanishi and H. Nakamura (2009) Adaptations in the common cuckoo (Cuculus canorus) to host eggs in a multiple-hosts system of brood parasitism. Biological Journal of the Linnean Society 98:291-300.
  4. Takasu F. (2009) Individual-based modeling of the spread of pine wilt disease: vector beetle dispersal and the Allee effect. Population Ecology 51:399-409.
  5. Stokke B.G., F. Takasu, A. Moksnes, and E. Røskaft (2007). The importance of clutch characteristics and learning for anti-parasite adaptations in hosts of avian brood parasites. Evolution 61-9: 2212-2228.
  6. Munoz A. R. , M. Altamirano, F. Takasu, and H. Nakamura (2007). Nest light environment and the potential risk of common cuckoo (Cuculus canorus) parasitism. The Auk 124(2): 619-627.
  7. Røskaft E., F. Takasu, A. Moksnes, B. Stokke (2006). Importance of spatial habitat structure on establishment of host defenses against avian brood parasitism. Behavioral Ecology 17: 700-708.
  8. Kawasaki K., F. Takasu, H. Caswell, N. Shigesada. (2006). How doesstochasticity in colonization accelerate the speed of invasion in acellular automaton model?. Ecological Research 21:334-345.
  9. Takasu F. (2005). A theoretical consideration on co-evolutionary interactions between avian brood parasites and their hosts.Ornithological Science 4: 65-72.

著書・訳書

  1. 進化 − 分子・個体・生態系 −, 第20章 表現型の進化, 599-632ページ 翻訳 Evolution by NH Barton, DEG Briggs, JA Eisen, DB Goldstein, NH Patel, Cold Spring Harbor Laboratory Press 2007, 宮田隆・星山大介監訳 メディカル・サイエンス・インターナショナル 2009年12月
  2. 数理科学事典 編集代表・広中平祐 生命の数理/進化生物学/共進化 278-281ページ 執筆 丸善 2009年11月
  3. 高須 夫悟 (2009) オナガの分布域拡大にともなうカッコウとの新たな関係「鳥の自然史 空間分布をめぐって 第5章 73-88  樋口広芳・黒沢令子編著 北海道大学出版会 ISBN978-4-8329-8191-1.
  4. 高須 夫悟 (2009) 個体性を保ったダイナミクスモデル. 空間の数理生物学第6章. 日本数理生物学会編集・瀬野裕美責任編集. 共立出版 ISBN978-4-320-05684-8.
  5. 重定南奈子, 高須夫悟 共訳 (2003). 『持続不可能性 - 環境保全のための複雑系理論入門』文一総合出版, 376 pages. "Fragile Dominion - complexity and the commons", Simon Levin (1999). Perseus Publishing, Cambridge, Massachusetts.
  6. 高須夫悟 これからの鳥類学(山岸哲・樋口広芳共編)第8章数理生態学と鳥類学−托卵を題材にして−. 裳華房 2002.
  7. 重定南奈子, 瀬野裕美, 高須夫悟共訳『新人口論−生態学的アプローチ』農山漁村文化協会, 656 pages. 1998. "How many people can the earth support?", Joel. E. Cohen (1995). W. W. Norton & Company, New York.

関連リンク


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奈良女子大学 理学部 情報科学科
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