ドイツでの2年間の研究滞在を終えて

自然情報学講座 野口克行

私は、2008年8月から2年間、ドイツ連邦共和国のブレーメン大学に日本学術振興会の海外特別研究員制度を利用して長期の研究滞在をしてまいりました。ブレーメンは北ドイツにある街で音楽隊の童話で有名ですが、ドイツでも有数の歴史の長いハンザ同盟の街でもあり、旧市街の建物などは世界遺産に指定されています。

旅行ガイドによれば、北ドイツの人々は無愛想ということになっていますが、私の周りに居たドイツ人はみな、気さくな方々が多く、外国人や外国文化にも寛容でした。食べ物も、巷で言われるようなソーセージ・芋・ビール、という典型に拘らず、レストランやスーパーマーケットでも様々な料理や食品を楽しむことができました。一方で、研究所を出て街に行くと英語が通じないことも多く、慣れないドイツ語で苦労することもしばしばでした。

私が滞在したのは、ブレーメン大学の付属機関である環境物理学研究所(IUP)というところです。この研究所は、電磁波を用いた遠隔測定(リモートセンシング)による大気環境計測の分野で大変有名で、近年は人工衛星に搭載された大気微量成分センサによる研究で世界を大きくリードしています。私は、その研究所において、紫外線や可視光の波長域を利用したセンサを担当するグループの研究者と2005年から共同研究を行なっており、海外特別研究員に応募するにあたりこの研究所を滞在先として選びました。

滞在中に行なった研究は、人工衛星による地表付近の二酸化窒素(NO2)の観測に関わる仕事です。NO2は、主に高温燃焼時に発生する大気汚染物質で、自動車や工場などから排出される気体です。それ自体、生物にとって有害な物質ですが、近年問題となっている光化学スモッグ(対流圏オゾン)の原因となる前駆体でもあります。そのため、観測による常時監視が必要であり、日本では環境省や地方自治体が中心となって巨大な地上観測網を築いています。東アジア域では、中国をはじめとして急激な経済発展により大気汚染物質の放出が続いており、大気汚染の度合いは年々ひどくなっています。そのため、日本国内に限らず、より広域的な範囲における観測が必要です。

私は、まず、過去に人工衛星で観測されたNO2データを解析し、東アジア域、特に中国や日本におけるNO2の時空間分布を調べました。空間分解能の高いセンサを用いると、例えば東京圏や大阪圏などの都市域にまで分離して調べることができます。日本の場合、前述のように地上観測網が発達していますので、地上観測と比較することで衛星観測の妥当性を評価することもできます。

また、観測データの解析とは別に、今後の人工衛星のセンサ開発のためにシミュレーションも行いました。現在、日本ではGMAP-ASIA(Geostationary Mission for Meteorology and Air Pollution)というプロジェクトが大気化学研究者の有志によって進められており、静止軌道から大気汚染物質を観測する衛星を打ち上げることを目指しています。現在の人工衛星による大気汚染観測は、太陽同期の低高度軌道の周回衛星によって行なわれているため、決まった時刻での観測しか行なえません(例えば、午前10時とか午後2時など)。静止衛星による大気汚染観測が実現すれば、「ひまわり」による気象観測のように、大気汚染物質が時々刻々と変化していく様子を面的に観測することができるようになります。シミュレーション結果によると、現在想定されているハードウエアの性能でも東京上空のNO2の日内変化が観測可能であるという結論が得られており、さらに検討を進めて計画実現への道筋を付けたいと考えています。

このような研究は、コンピュータ(我々は、計算機と呼んでいます)を駆使したデータ解析やシミュレーションに基づいています。本学科は情報科学科ですが、学科の半分は情報科学を応用して生物や地球、環境問題を研究する講座で形成されており、情報科学だけでなく自然科学に興味がある生徒さんや学生さんの方々にもぜひ志して欲しい学科だと思います。国際的な共同研究も活発であり、日本だけに留まらず世界を舞台に活躍する事に興味がある方にもオススメです。もし、本学科・本講座に興味がある方は、どうぞ御気軽にご連絡ください。

 

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